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この記事は2021年8月15日に発行された「SoiL vol.1」の文章です。

OPENING

大熊町、熊川部落の海岸には、かつて並松(なんまつ)と呼ばれた松林が広がっていた。東日本大震災時の津波でなぎ倒され、或いは枯れてしまったなかで、一本だけ生き残っている松がある。

2020年春。その松のてっぺんにミサゴのつがいが巣を作った。

そこは、津波の犠牲になった木村汐凪の遺骨の一部が見つかった場所を見下ろす樹上。様々な生物がここでも当たり前に営みを続けているのだろうけれど、震災前には見かけることのなかったミサゴの営巣に不思議な縁を感じ、興奮しながらその子育てを追った。

 

巣作り

彼らは、枯れ草やその根っこ、枯れ木の枝などを集めて夫婦で巣を作る。人間の残した廃棄物も再利用するようだ

 

枯れ木の枝を折って

土もむしり取って。

人間顔負けの左官仕事

夫婦で共同作業

 

威嚇

近づくものへの警戒も怠らない

 

環境

ここは中間貯蔵施設エリアの南端。工事車両が頻繁に行き交う。ミサゴの営巣に気付いた環境省は、この松周辺での作業の制限を設けた。ミサゴは、準絶滅危惧種らしい。

 

熊川海岸では地震、津波で壊れた防潮堤の撤去がやっと始まり、消波ブロックも運び込まれていた。

 

巣の下を大型ダンプが行き交う

 

ここは、事故を起こした福島第一原子力発電所から南に4キロほどの場所。人は生活できないと規制の設けられた場所ではあるけれど、ミサゴはここで当たり前に生き、子育てし、ここで得られる命を全うして生きている。もしかしたら、他の地域の個体よりも寿命は短いのだろうか? でも、彼らはそんなことは考えない。人が逃げ出した場所で当たり前に生きている。我々人は、これをどう考えればいいのだろう? 怖いと感じる知能を持つ人間は、特別なのだろうか? 少なくともここは、人間自らが引き起こしてしまった現実が長く残っていくだろう場所。生き物が責任を追及してくることはないけれど、だからこそ人は考えなければならないはずだ。