【報告】遺構ミニ勉強会「建物をのこすということ~事例から熊小を考える~」
2026年2月8日開催
遺構ミニ勉強会「建物をのこすということ~事例から熊小を考える~」を学び舎ゆめの森のサブアリーナで開催しました。64名(会場参加46名、オンライン参加18名)の参加がありました。町内からは21名の方に参加いただき、町外からは、双葉郡内で民間の建物を保存する取り組みにかかわっている方や、公共の博物館で勤務されている方もいらっしゃいました。参加者からは、「とても勉強になった」「復習したいからアーカイブを見せてほしい」という声をたくさんいただきました。本記事では、いつも通り当日の報告を記しますが、非常に盛沢山な内容でしたので、下記のアーカイブをご視聴いただくことをお勧めします。
【2/8アーカイブ映像】
今回、講師として、後藤治さん(工学院大学 総合研究所 教授)にお越しいただきました。建築物や文化財、景観などの保存・活用にかかわるご自身の取り組みや、各地の事例を紹介いただき、旧熊町小学校の保存・活用を考える機会として実施しました。勉強会の開始前には、大熊町の帰還困難区域内や中間貯蔵施設内、避難指示解除区域を運営メンバーがご案内し、今、大熊町が直面している課題についても共有しました。
勉強会では、後藤さんの専門的知見から、財政負担を抑えた現実的な保存手法や、地域資産としての活用可能性について具体的な提言を得ることができました。
◎これまでの取り組み
文化庁で勤務された経験もある後藤さん。福島県内では、南会津町や福島市、喜多方市の文化財の保存・活用に取り組まれました。喜多方市においては、大変画期的な「建築基準法適用除外条例制定」に協力されました。
東日本大震災被災地に限らず、「大規模災害復旧時には慣れ親しんだ地域の風景が失われやすい」とし、それは「従来の国の住宅政策と災害対応政策が大きく影響している」と指摘。比較的、新しく手に入れる住宅に税金や補助が付くため、また、被災家屋の解体が公費によって推進されるため、災害時には「解体」を選択する傾向が強いとのこと。しかしながら、地域の風景を形作っているものは、ほとんどが古い建物であり、またその保存については、指定・登録されている文化財にしか補助がつかないのが現実。保存に向けて動かなければ、必然的に災害前の建築物は数が減っていくのが現状です。

その中でも、熊本地震の際に費用を抑えて土蔵の復旧に携わった事例や、東日本大震災時の宮城県においていち早く空き家を二世帯住宅に改修した事例など、ご自身が被災地で取り組まれた事例についても紹介されました。これまでの経験を通じて、「災害発生前から空き家を利用しておくことで、災害時にはみなし仮設として活用できる」可能性を提唱されています。
◎どのような価値づけをするか
では、文化遺産(建造物)の価値づけの視点はどのようなものなのか。主に、「建築的価値」と「歴史的価値」に分類され、なおかつ、学校建築においては、地域住民の思い出や、地域の行事があった場所という「歴史的価値」としての位置づけが考えられるとのこと。しかし、大熊町の建築物は造りがしっかりしているので、「建築的価値」もあわせて文化財と捉えられる可能性はあると紹介。また、熊町小学校には町内最古の鉄筋コンクリート(RC)造建築としての価値がある可能性もあります。
◎建築物や景観の保存にかかわる法制度
歴史的建築物の継承やまちづくりに役立つ法制度として、「文化財保護法」「景観法」「歴史まちづくり法」などがあげられます。しかし、国の制度に限らず、自治体で独自の判断基準を設けて条例を設けている事例も多くあり、自治体が地域の文化を守る取り組みを行うことも重要であるという示唆をいただきました。
◎建築物の保存にかかわる費用面の課題と、発想の転換
後藤さんが保存にかかわった、大分県玖珠町の「豊後森扇形機関庫」の事例をご紹介。当初、耐震補強で多額の費用がかかるとして解体される方向で議論が進んでいました。しかし、同施設は、外観を見学するために全国から観光客が訪れる場所であることから、後藤さんは「施設内に人を入れようとするから莫大な費用がかかる」とし、屋根のみ修理して周囲に柵を設け、公園として整備する計画を提案されました。最終的に町の予算内で整備することができた。現在は同施設を見物しながら休めるカフェができて、観光客でにぎわっています。
このように、その建築物の価値がどのように引き出せるか、費用面を抑えながら、周辺環境も鑑みて計画をつくることが重要です。また、学校建築の場合、改修(リノベーション)は新築の6〜7割のコストで可能であり、解体・廃棄費用も含めると新築の方がトータルコストは高いというデータが示されました。『古い建物は維持費がかかる』という固定観念を捨て、既存ストックの活用こそが経済合理的であるとの指摘がありました。
◎行政と民間の連携
地方自治体は多くが財政難であり、最近では、公共の施設や公園の維持管理において、民間への指定管理や官民連携などが進み、行政と民間が運営する形式(または民営)が増えています。PFI事業(民間資金活用)で整備された渋谷区立北谷公園では、公園整備・維持管理に民間企業が大きく関わっています。この事例から、「たとえば、旧熊町小学校を解体して更地にした場合でも、空地の草刈りなどの管理費は発生する」と指摘されました。昨今は、民間の知恵を入れながら活用せざるを得ない時代であると考えると、校舎がある状態のほうが、活用の幅が広がるということは明らかです。
◎活用する夢を持ち続ける
維持整備の費用の確保の方法は、収益施設として活用する方法や、別の収入(関係する資料館の入館料など)を維持費に充てることが考えられます。しかし、「建物はただの箱であり、人々が利用して魂を入れていかないと残っていかない」と指摘。熊町小学校は、2045年まで中間貯蔵施設に含まれていますが、「将来、何等かの形で活用する夢を持ち続けることも大事」であると発言されました。
◎質疑応答
「熊町小学校を外観から見学して、劣化の状況などはどのように感じたか」という質問があり、後藤さんは、「雨漏りについては普通の学校施設でも必要な手入れであり、(現在の築年数を考慮しても)最低限の修理をすれば十分長持ちする」と回答。まずは雨漏り防止等を実施し、「崩壊を防ぎ、時間を稼ぐ」という低コストの保存レベルを設定し、今すぐ結論(解体か保存か)を出さず、将来の活用方法について、時間をかけて検討できるように維持するという選択肢が有効であると述べられました。
また、欧米各国の建築物や景観の保存・活用における概念や修復基準も紹介され、特に「Rehabilitation(適合的再利用)」という国際的な概念を紹介し、利活用しながらの保存が望ましいと述べられました。Rehabilitationはいわゆる「別の用途に利活用する」ことを思い浮かべますが、Rehabilitationを考える上で参考にできる指針(イギリス)を紹介。経済効果などの限定的な利活用にとらわれず、いくつかの基準や指針を組み合わせて保存・活用の方法を検討する手法を示していただきました。
今後、広い視野で将来の保存・活用について検討し、なおかつ10年20年後の状況の変移も予想されることから、時間をかけて検討することが必要であると提言されました。
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講演の最後には、「建物をのこすということは、地域の歴史文化を“資産”に変えることであり、歴史まちづくりである」「歴史まちづくりこそが、地域を豊かにするための継続した長い取り組み・投資である」と締めくくられました。まさに、「大熊町文化財保存活用地域計画」を策定された大熊町において、重要な視点であると感じました。
この日の質疑応答は、これまで以上に活発でした。ある町民からは、「残すことで原発事故を思い出すという声や、風評被害がいつまでも続くのではという声もあるが、そのような町民に対してどのような言葉をかけますか」という質問がありました。後藤さんは、「あの学校をなくしても、風評被害はなくならない」「むしろ正面から向き合ったほうがいい」と返答し、「たとえば、原爆ドームだけを世界遺産に指定するのではなく、原爆投下後、“どのように復興したのか”も含めて、原爆ドームと合わせて保存するべきだと思う。それが負の遺産に対して正面を向いたことになるのではないか」と述べられました。
今回さまざまな事例や保存・活用の手法を学び、熊町小学校においては、中間貯蔵施設の将来を踏まえ、公園のようにとらえて保存・活用を考えることも、視野に入れる必要があると感じました。今後も、学習会やワークショップを実施する予定です。